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適材適所ではプロジェクト・サイクル・マネジメント(PCM)の研修の企画や講師の派遣をしています。今回は、2017年で3年目となった広島大学国際協力研究科の学生さんを対象とした研修についてのレポートです。
このページに辿り着いた人の中に、プロジェクトと聞いて具体的なイメージが湧く人もいれば、湧かない人もいるかもしれません。プロジェクトは国際協力の現場に限ったものではなく、日常生活の様々な場面でも体験するものです。体重をコントロールするのも、部屋を片付けるのも、パンを焼くのもプロジェクトです。バイトをしてお金を貯めて旅行に行くことやそのお金で欲しいものを買うのも、言ってみればプロジェクトです。要するに、「願いを叶えたい」「何かを実現・解決したい」という思いがあって、どうしたらそれが叶えられるか、実現・解決されるかを考えて行動することがプロジェクトです。国際協力の現場では、プロジェクトを実現するためには、いろいろな人に協力してもらわなければなりません。そのため、考えたプロセス、(最終的に一つの目的に絞り込んだ)実現する方法、何を持って成功、達成、実現したと判断するのかを一つ一つ記録しなければなりません。あとから誰が読んでも理解できて、実行可能で、将来的に(条件の似たようなところや環境において)真似できるようにする必要があります。その中心的な文章がプロジェクト・デザイン・マトリックス(通称PDM)です。
導入が長くなりましたが、ここ数年大学院生や留学生に対して、PDMを作るプロセスを紹介し、実際に作ってもらい、それに対してアドバイスをする活動をしています。2017年5月、ゴールデンウィーク後半に開催したワークショップでは広島大学国際協力研究科の大学院生7名そしてアフリカからの留学生5名が参加しました。講師である適材適所のメンバーが実例に基づいて概念やプロセスを紹介し、参加者は自分たちの問題意識を整理して、一つの形にしていく作業です。2日間朝から晩まで集中的に学び合いました。参加者全員で取り組んだ課題はガーナの教育システムです。現状を分析して、教育プロジェクトの枠組みを考えました。
具体的には、まず、「これから設定するプロジェクトにどういう人が関わったらよいか。」を大きなポストイットに書いて貼りだして、全員の目の前で整理する方法を取ることで、全員が議論に参加できるように工夫しました。その中で、講師として特に強調したことは宗派、民族、組織内のヒエラルキーや地域文化など相手国の状況により判断することの重要性です。ここなくして国際協力プロジェクトとして成立し得ません。二つのグループに分かれた学生たちは、事前に収集したガーナの教育に関する情報から、プロジェクト・サイクル・マネジメント(PCM)で採用している論理思考(ロジックに基づいた)の「原因・結果」の考え方に基づいて、中心問題として①有資格教員の配置の不均衡(都市への集中)、そして②中等教育修了率の低さを特定しました。そして、関係者一丸となって何をすべきかを考え、プロジェクトの目標を設定しました。更に、目標を実現するための活動を考え、プロジェクトをモニタリングするための情報源を特定し、あとからプロジェクトに関わった人が何の基準で成功か失敗かを判断するための基準づくりなどの作業を行いました。この基準は通称SMART(つまり賢い)なものでなければなりません。つまり、Specific(具体的)、Measurable(測定可能)、Attainable(実現可能)、Relevant(関連があって妥当)、Time bound(特定の時間の制約を受ける)といった条件を満たすものでなければならないことも重視しました。
途中意見調整や議論の盛り上がりで思った以上に時間がかかるところもありました。そのため、予定していたことすべてをこなすことはできませんでした。けれど、ここではすべて無難にこなすことが目的ではなかったですし、現実問題、難のないプロジェクトはありません。今回は学生たちがその後、より本格的なプロジェクトを計画するための準備運動だったことを考えると、プロセスを楽しみつつ、一通り経験することができたことからこのプロジェクトの目標が達成できたのではないかと思います。そう、研修や教育の現場も「プロジェクト」だらけなんです!