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適材適所のメンバーが日々の業務の中で体験した出来事のたわいもないお話です。カフェラテでも飲みながらお読みください。
2017年8月にバングラデシュのダッカでプロジェクト評価業務に従事した時のことです。その前年の7月にダッカではレストラン襲撃事件が発生しており、滞在していたホテルはその場所から近くにありました。事件後は安全管理上、業務による外出以外はホテル内で過ごすことになっており、この日も日中に実施した関係者インタビューの記録作成とデータ整理をホテルの自室で進めていると、もう夜の10時半を過ぎる時間となっていました。ホテルの部屋はクーラーの低音が響いており、照明は薄暗く、窓には頑丈な鉄格子。ホテルに一人でいると、犠牲となった方への思いや想像、そして再び万が一のことが起こる少しの不安も心をよぎります。「万が一のとき、部屋のあの通風口から外に逃げられるかな。外へ出たとして、隣のビルの屋根に飛び移れるかな。」
そんなところに突然、ホテルの部屋の電話が大きな音で鳴りました。業務の連絡は携帯電話で行っていたので、その時まで部屋に電話が設置してあることさえ意識していなかった私は、その音の大きさにびっくりしました。慌てて応答してみると、男性が受話器の向こうで「Can I come to your room?」ときいてきました。
今日も終わろうとする夜の10時半です。半信半疑で受話器をおいて数分も経つと、本当に部屋の呼び鈴が鳴りました。ドア・スコープからのぞいてみると、面識のあるホテルのボーイらしき上半身。「後ろの見えないところで誰かが脅して、ボーイにドアを開けさせようとしているかも。」 確かに一瞬はそういう考えも浮かびましたが、いずれにしても電話で在室なのはもう既に明らかですし、ボーイの笑顔に促されて平常にドアを開けました。
すると「ハッピーバースデー!」の賑やかな声と拍手。そして、ホテルのボーイ5人が、手にデコレーション・ケーキを持ち、花束とともに笑顔で部屋に入ってきたのです。思い出した、この日は私の誕生日なのでした。全くのサプライズ。調査中で特に誰に言う事もなく、忙しい妻からのお祝いのメールも無く、夜の10時半を回って、今日はそんな言葉を聞くこともなく静かに終わるものと、すっかり忘れていたのでした。がやがやと賑やかに入ってきた5人は、部屋で「ハッピーバースデー!」とさらに大きな拍手で祝ってくれました。ケーキには「Happy Birthday, (私の名前)」とクリームで描いた文字。そして花束にもホテルから私宛の手書きのカードが付いていました。
最近の自分の誕生日で一番びっくりすると共に、いつもどことなく緊張を感じていたダッカでの忘れられないバースデーとなりました。これまで多くの国で仕事をする中で、どの国でも変わらない人の暖かさや親切さを多く経験してきました。そこでの感謝を他の人に返していかないと、と私も意識して過ごす毎日です。