専門家派遣

「専門家派遣とは?」と真面目に考えてみると、まずは「専門家」ってなんぞやという疑問にぶつかります。

ODAの世界では、昔からいわゆる「専門家」という立場の人が途上国に派遣され、日本が培った様々な技術やノウハウを伝授してきました。

以前は省庁・地方行政機関、あるいは個人での人材派遣が多かったのですが、最近ではODAコンサルタント企業が請負い、「専門家」としてチームあるいは個人で派遣されるケースも増えています。前者の省庁・地方行政機関、個人派遣の場合は、直営専門家と呼ばれており、ちょっと平たく、また乱暴な言い方をすればJICA人材(専門家)として派遣されるような感じです。一方、コンサルタント企業の人材が派遣される場合は、JICAとコンサルタント企業が業務契約を締結し、「請負」という形で業務を遂行します(こちらは「業務実施型」と呼ばれることが多いです)。

ちょっとややこしいですが、要は日本側での派遣形態は複数あるということです。そして、直営専門家と業務実施型で派遣される形態(チームで請負の場合)が混在しているプロジェクトを、「ハイブリッド型」と呼ぶこともあります。あと、直営専門家と業務実施型の違いとしては、直営専門家は「長期専門家」として1-2年間、どっぷりと根を下ろしいわゆるResidentsという立場で仕事をするケースが多いのですが、業務実施型の場合は短期専門家として出張ベースで現地に赴いて業務に携わります。

ただし、これは日本サイドの話であり、専門家を受け入れる側にとっては、みんな同じ「JICAの専門家」です。相手国にしてみれば、長期専門家として現地業務に従事しているか、短期で、年に何回かやってくるかの違いぐらいです。

さて、派遣形態の話はこれぐらいにして、中身の話に移りたいと思います。

キャパシティアセスメントの説明中

 (説明を受ける地域事務所の職員)

専門家は、一体何をやっているのか?

端的に言えば、技術移転・技術指導です。専門家業務には、必ずカウンターパート機関があります。

長期専門家の場合は、カウンターパート機関が「配属先」として設定されます。つまり、JICAの専門家だけども、カウンターパート機関に所属しいてるということになります。イメージがつきやすいところでいうと、「出向先」のようなものですね(厳密には違いますが、あくまでもイメージです)。

業務内容を一言でいえば、カウンターパート機関のニーズにあった技術指導をします。カウンターパートが、その機関の役割を果たし、機能するために、どういう能力向上を図らなければいけないのかを見極め、それに合致したレベルの技術指導をします。対象となるセクターは、案件数において数の違いはありますが、JICAがカバーしているセクターです。詳しくは、JICAのホームページを覗いてみてください。技術指導といっても、中身は様々です。機材の使い方を教えることといえば、想像がつきやすいと思います。もちろんこうした指導もありますが、目指すところは「カウンターパート機関が自分でできるようになること」です。つまり、操作方法を教えても、それは単に使えるようになるだけで、「業務遂行」「機関の役割を果たす」という観点からは、不充分です。きちんとカウンターパート機関がその役割を果たすためには、組織がきちんとマネジメントされ、職員がそれぞれの業務の内容を理解して決められたプロセスを守って業務を遂行する必要があります。したがって、指導内容には、業務プロセスの強化、マネジメントの強化(例えば計画策定能力の向上、人材育成の支援)などもカバーされます。

また分野や案件によっては、カウンターパート以外の関係者もかかわってくることがあります。例えば、ヘルスワーカー、水利組合、コミュニティメンバー、子供たちと・・・とかかわる人も様々で、彼らが当該分野で活躍してくれるように、直接彼らの能力向上にかかわることもあれば、彼らの能力向上が図れるように、まずはカウンターパート機関の指導力を強化するケースも多くあります。つまり、誰のどんな能力を向上させる必要があるかをしっかり考えて、動く必要があります。

「専門家」とは、その分野の専門性だけでなく、相手のニーズがどこにあり、沢山ある引出しの中からニーズに合致したものを取り出し、カスタマイズして指導していける人のことではないかと思います。ドラえもんのポケットから、何を取り出し、どう組み合わせて、何を、どう教えるのか。このあたりが「専門家」としての質を問われるところなのでしょう。