適材適所では、プロジェクトマネジメント、組織分析・強化、障害者の社会参加、キャリア形成支援等、様々な分野の研修講師の派遣を行っています(実績一覧はこちら)。具体例として、日本国内の若手人材向けの研修と来日した外国人研修員向けの研修をご紹介します。
(1)日本国内の若手人材向けの研修
2016年から、適材適所は大学や大学院で国際協力を学ぶ学生の方々を対象にプロジェクトの計画・立案やモニタリング・評価の研修プログラムを提供しています。2018年のこちらのレポート記事と同様に、2019年、2020年と広島大学でプロジェクト・サイクル・マネジメント(PCM)研修を実施しました。この研修では、数日間の講義と演習をとおして、課題解決のためのプロジェクトの計画立案の手法を学びます。
研修内容と進め方
研修1日目は、国際協力プロジェクトの概要理解、関係者・組織の現状把握、中心となる問題や関連する問題の分析を行います。はじめに参加者は、事例を読み込み、人々はどんな問題に直面してるのか、その問題はなぜ起こり、他のどのような問題を引き起こしているのか、置かれている状況をじっくり考えます。その後、4-5人ずつのグループに分かれて、壁のボードに大きなポストイットを貼りながら対象になる地域や組織の「問題」を書き出していきます。このポストイット手法は、一人一人の意見を「見える化」するのに役立ち、後に議論しやすくする工夫でもあります。ポストイットとペンを渡されると、それまで黙って座っていた学生も自分の思うところを次々と書き込んでペタペタとボードに貼っていきます。1つの問題には必ず原因と結果があります。この問題はこういう理由で起きていて、それはさらにこういう問題が影響していて、、、と問題同士の関係性について、ボードのポストイットを動かして線を引いたりして、皆で話し合いながら整理していきます。研修では事例を使って、当事者や関係者になったつもりで問題を分析するので、想像上の議論になるのも仕方ないのですが、できるだけデータや情報に基づいた議論となるように留意してもらいます。
PCM研修のポイントは、1つの正しい答えが用意されているのではなく、参加者が意見を出し合いコンセンサスを得るという合意形成のプロセスを体験してもらうことです。そのため、私たち運営スタッフも、どんな展開になるか内心ドキドキしながら議論の進行支援を行っています。
研修2日目は、前日に分析した問題の系図をもとに、これらの問題を解決するための手段を考えていきます。一般的に問題というのは複層的で、解決方法は1つとは限りません。そのため、様々なアプローチを並べて、問題解決に最も効果的な手段は何かをグループで議論して優先順位をつけます。優先順位付けは個人によってもグループによっても考え方に差が出るところで、毎回結論がでるまでに時間を要する場面です。そして、晴れてチーム全員の合意を得たアプローチを基に、今度は具体的なプロジェクトの枠組みを策定します。何を達成するために、いつまでに、どんなことをするのか、といったプロジェクトの内容を標準化された概要表(プロジェクト・デザイン・マトリックス:PDM)に落とし込んでいきます。PDM作成の際、前日に作成した問題系図やアプローチの系図を見ながら、目的と手段のロジックを何度も確認します。改めてカードを見ると何か違和感がある、論理的に繋がらないということに気づくことも多く、グループ内で話し合い修正しながらPDMを完成させていきます。この修正課程もとても大事な学びになります。
最後に、完成したPDMをグループごとに発表し、工夫した点や難しかった点を共有します。同じ事例を使っていても、様々な内容のプロジェクトが提案されるのはまさに参加者のコンセンサス・ビルディングの結果といえるでしょう。
コロナ禍の研修実施
2020年は、世界的なコロナウイルスの蔓延により、初のオンライン仕様のPCM研修を実施しました。
PCM研修の特徴である「ポストイットによる視覚化」「主体的な参加と合意形成」といった部分をどのようにオンラインで経験できるか、弊社チームは頭を抱えながらプログラムを作りました。通常の対面型の演習ではグループで共同作業をしますが、オンライン型では演習は個別作業を多く取り入れました。途中でZoomのブレークアウト機能を活用しながら、グループでの議論や発表を行い、お互いの問題意識や気づきを共有する機会を作ることを意識しました。結果としては、オンラインでの研修は不可能ではありませんでした。ただ、画面越しに見えるのは一部分だけであり、通常の対面研修にあるグループ議論の盛り上がりや参加者同士の協働の様子、軌道修正のタイミングなどがわかりにくく、やはり常時の「見える化」による全体の進捗把握は研修の大事なポイントであることを改めて認識しました。
(2)海外から来日した外国人研修員向けの研修
2022年夏には、アフリカのマラウイ共和国から来日した研修員向けにPCM研修を実施しました。研修員は弊社コンサルタントが専門家として関わっているJICAの技術協力プロジェクトのカウンターパート機関の方々で、水道事業のプロフェッショナル集団です。そのため、単なる手法伝授ではなく、研修員の方々が所属する組織を中心に実践的で実現可能な業務改善のヒントとなるような研修内容を意識して、問題を分析し、改善案を計画し、モニタリング・評価を行う研修プログラムを提供しました。3日間の研修中はマラウイのプロジェクト事務所の専門家とオンラインで繋ぎ、ハイブリッドで講義を実施しました。マラウイの研修員の皆さんは、時差の疲れも見せずに積極的に議論や演習に取り組んでいました。短い期間ではありますが、本研修や視察で得た経験が少しでも今後の研修員の皆さんの業務に役立つものとなることを願っています。